株式会社野村総合研究所 社会情報システム事業部 エキスパートコンサルタント 中村 雅彦
2026/10/06
生活への満足度が高い人ほど、新しいことにも前向きである。反対に、現在の生活に満足していない人は、行動や学習にも消極的である――一般には、そのような関係を想像しやすい。しかし、今回の調査結果からは、生活満足度と学習意欲が必ずしも同じ方向に動くわけではないことがわかった。
人との関係を外部に広げたいと考えながら、何かに取り組む際には失敗を心配する人たちは、人間関係や生活全体への満足度が4類型の中で最も低い。一方で、「新しいことを学習したい」と答えた割合は89.4%に達し、4類型の中で最も高かった。現在の状態に十分満足していないことは、必ずしも意欲の低さを意味しない。むしろ、今とは異なる人間関係や活動を求める気持ちが、学習意欲として表れている可能性がある。
本コラムでは、人との関係の築き方と、自分の行動に対する見方を組み合わせた4類型から、シニアの生活満足度や学習意欲、デジタル活用への自信の違いを読み解く。
今回の分析では、二つの設問を組み合わせて、シニアの生活行動価値観を4つに分類した。
一つ目は、人との関係についての考え方である。
「積極的に外に出て、外部の人との関係を強くしたい」
「家族や親戚との関係を大事にしたい」
二つ目は、何かに取り組む際の自己評価である。
「自分は何かをやるときに、失敗するのではないかと思ってしまう」
「自分は何をやってもうまくいくと思う」
本稿では、後者の軸について、便宜上「悲観的」「楽観的」という表現を用いる。ただし、これは回答者の性格全体を示すものではなく、この設問に対する回答傾向を表したものである。
二つの軸を組み合わせると、次の4類型になる。
①外部の人との関係強化×悲観的
②家族との関係が大事×悲観的
③外部の人との関係強化×楽観的
④家族との関係が大事×楽観的
図2は、4類型の構成を男女・年代別に示したものである。全体では、「②家族との関係が大事×悲観的」が39.8%で最も多く、次いで「④家族との関係が大事×楽観的」が28.2%となっている。両者を合わせると、家族との関係を重視する層が全体の約7割を占める。
男女別に見ても構成に大きな違いはなく、男女とも「②家族との関係が大事×悲観的」が約4割で最も多い。一方、「①外部の人との関係強化×悲観的」は男性14.3%、女性18.8%、「③外部の人との関係強化×楽観的」は男性16.9%、女性14.0%となっており、外部との関係を重視する層では、女性は悲観的な類型、男性は楽観的な類型の割合がやや高い。
年代別に見ると、男性では80歳以上で「②家族との関係が大事×悲観的」が34.2%と他の年代より低く、「③外部の人との関係強化×楽観的」が21.7%と高い。女性では、75~79歳と80歳以上で「①外部の人との関係強化×悲観的」がそれぞれ20.0%、20.4%となっている。
ただし、男女・年代によって4類型の構成が明確に分かれているわけではない。同じ性別や年代の中にも、人との関係をどこに求めるか、また自分の行動をどのように捉えるかによって、異なる価値観を持つ人がいることがわかる。
4類型別に生活満足度を見ると、外部との関係を重視するか、家族との関係を重視するかよりも、楽観的か悲観的かによる差が大きい。生活満足度の平均は、「①外部の人との関係強化×悲観的」が5.72点、「②家族との関係が大事×悲観的」が5.84点だった。これに対し、「③外部の人との関係強化×楽観的」は6.58点、「④家族との関係が大事×楽観的」は6.54点となっている。楽観的な2類型の平均点はほぼ同じであり、外部志向か家族志向かによる違いは小さい。一方、悲観的な2類型と比べると、0.7~0.9点程度高くなっている。
満足度が8~10点の割合でも、同様の傾向が見られる。
・外部の人との関係強化×悲観的:21.3%
・家族との関係が大事×悲観的:17.6%
・外部の人との関係強化×楽観的:36.6%
・家族との関係が大事×楽観的:43.1%
人との関係をどこに求めるかにかかわらず、「自分はうまくやれる」と考える層では、生活への満足度が相対的に高い。ただし、この結果から、楽観的に考えることが生活満足度を高めると断定することはできない。現在の生活が安定しているために、自分の行動も肯定的に捉えられる可能性がある。価値観と生活満足度は、相互に関係していると考えるのが妥当だろう。
現在の人間関係に対する満足度でも、楽観的な2類型が高い。
平均点は、「③外部の人との関係強化×楽観的」が7.56点、「④家族との関係が大事×楽観的」が7.79点だった。一方、「②家族との関係が大事×悲観的」は7.14点、「①外部の人との関係強化×悲観的」は6.74点となっている。
4類型の中で最も低いのは、「①外部の人との関係強化×悲観的」である。この層は外部の人との関係を強くしたいと回答しているが、同じく外部志向である「③外部の人との関係強化×楽観的」の満足度は7.56点と高い。したがって、現在の人間関係への満足度が低いという結果は、外部との交流を好む人ほど満足度が低いことを意味するものではない。
考えられるのは、外部との関係を広げたいという意向と、現在の人間関係の状態との間に、隔たりを感じている人が含まれていることである。人とのつながりを求めていても、実際に新しい関係を築くことへの不安や、自信の持ちにくさがあるのかもしれない。もっとも、本調査では、外部との関係を求める理由や、人間関係に満足していない理由までは尋ねていない。その解釈には慎重さが必要である。それでも、交流への意向と現在の満足度は別のものであり、「人と関わりたい」と考えていることが、すでに十分な人間関係を持っていることを意味しない点は重要である。
今回の分析で最も注目したいのは、「①外部の人との関係強化×悲観的」の学習意欲である。「何か新しいことを学習したい」と答えた割合は、次の通りだった。
・外部の人との関係強化×悲観的:89.4%
・家族との関係が大事×悲観的:68.4%
・外部の人との関係強化×楽観的:84.2%
・家族との関係が大事×楽観的:80.4%
人間関係と生活全体への満足度が最も低い「①外部の人との関係強化×悲観的」で、学習意欲は最も高い。
ここから、二つのことが読み取れる。
第一に、現在の生活への満足度が低いことと、新しいことへの意欲が低いことは同じではない。生活に何らかの不足や課題を感じている人であっても、学習や新しい活動を通じて、現在の状態を変えたいと考えている可能性がある。
第二に、学習意欲には、物事を楽観的に捉えるかどうかだけでなく、外部との関係を求める姿勢が関係している可能性がある。外部志向の2類型では、楽観的・悲観的のいずれも学習意欲が8割を超えている。新しい知識や技能を得ることが、人との接点を増やす手段として捉えられていることも考えられる。
ただし、学習したい理由までは今回の調査で確認していない。職業能力の向上、趣味、知的好奇心、人との交流など、動機はさまざまだろう。重要なのは、満足度が低い人を、意欲や関心も低い人として扱わないことである。
新しいことを学びたいという意欲が高くても、具体的な技能に対して同じように自信を持っているとは限らない。そのことを示す一例が、デジタル利用への自信である(図6)。
パソコンを使ってインターネットから欲しい情報を入手することについて、「自信がある」「ある程度できる自信がある」と答えた割合は、「③外部の人との関係強化×楽観的」で67.6%と最も高い。スマートフォンでも75.0%に達している。
一方、「①外部の人との関係強化×悲観的」では、パソコンが41.7%、スマートフォンが46.2%にとどまる。ここで注目したいのは、この「①外部の人との関係強化×悲観的」が、前述の通り、新しいことを学習したい割合では89.4%と4類型の中で最も高いことである。「失敗するのではないか」という悲観的な見方は、ともすれば「どうせ身につかない」という意欲の低下につながりやすい。しかし結果は異なっていた。つまり、「学びたい」という意欲の高さと、「自分にもできる」という自信の高さは、必ずしも一致しないのである。
社会のデジタル化に対する考え方にも同様の違いが見られる(図7)。「デジタルを積極的に活用して生活を豊かにしたい」または「デジタル化に何とかついていけるように頑張りたい」と答えた割合は、「③外部の人との関係強化×楽観的」では73.5%だったのに対し、「①外部の人との関係強化×悲観的」では54.0%だった。外部とのつながりや新しい学びを求める気持ちがあっても、具体的な技能に対する自信が伴っているとは限らない。この「意欲」と「自信」の間にある段差をどう埋めるかが、シニアの学習や社会参加を考えるうえで重要になる。
ここまでの結果から見えてくるのは、「学びたい」という意欲と、「自分にもできる」という自信を分けて考える必要があるということだ。特に、「①外部の人との関係強化×悲観的」の層は、学習意欲が4類型の中で最も高い一方、デジタル利用への自信は必ずしも高くない。
この層に不足しているのは、関心や意欲ではなく、意欲を具体的な行動に移すための条件である可能性がある。例えば、講座や活動を案内する際にも、内容や開催日時だけでなく、次のような情報が参加判断に影響すると考えられる。
・どの程度の経験が必要なのか
・一人で参加しても問題ないのか
・参加者はどのような人たちなのか
・わからないことを誰に聞けるのか
・学んだ後に、どのような活動につながるのか
新しいことを始める際に失敗を心配する人にとっては、参加後の具体的な姿が見えないこと自体が障壁になり得る。シルバー人材センターなどが講習や就業機会を提供する場合も、「初心者歓迎」と記載するだけでは十分ではない。見学や体験参加、少人数での講習、経験者との共同作業など、最初の一歩を小さくできる仕組みが重要になる。
一方、家族との関係を大切にする層では、特に悲観的な人の学習意欲が相対的に低い。この層には、外部との交流そのものを強調するよりも、日常生活に役立つことや、家族と共有できる学びとして提示したほうが参加しやすい可能性がある。
同じ「シニア向け講座」でも、参加者の価値観によって、有効な伝え方や参加方法は異なるのである。
今回の調査から見えてきたのは、シニアの生活満足度と学習意欲が、単純な比例関係にはないということだ。楽観的な層では、外部志向か家族志向かにかかわらず、人間関係や生活への満足度が高い。
一方、外部との関係を強めたい悲観的な層では、満足度は低いものの、新しいことを学びたいという意欲が非常に高い。その一方で、デジタル利用への自信は必ずしも高くなく、「学びたい」という意欲と「自分にもできる」という自信には隔たりがあることも見えてきた。
シニアの社会参加や学習を支援する際には、「参加していない人」「満足度が低い人」を、消極的な人として一括りにしないことが重要である。表面に現れている行動だけでなく、その人が何を望み、どこに不安を感じているのかを捉える必要がある。
すでに存在する意欲を見つけ、それを行動へ移しやすい形に整えること。シニアの可能性を生かすために必要なのは、意欲を外から与えることではなく、意欲が発揮される条件をつくることである。
A1. 必ずしも低くありません。「外部の人との関係強化×悲観的」の層は生活や人間関係の満足度が4類型の中で最も低いですが、新しいことを学習したい割合は89.4%と最も高くなっています。現状に不足を感じているからこそ、新しい学びを通じて状況を変えたいと考えている可能性があります。
A2. 必ずしも自信と一致するわけではありません。学習意欲が最も高い「外部関係重視×悲観的」層でも、PCやスマホで情報入手ができる自信がある割合は4割台にとどまります。「学びたい」という意欲と「自分にもできる」という自信の間にはギャップが存在します。
A3. 単に「初心者歓迎」と伝えるだけでなく、必要な経験値、一人参加の可否、具体的な作業内容、サポート体制などの不安要素を事前に解消する情報提供が有効です。また、見学や体験参加、少人数講習など最初の一歩を小さくする仕組みが重要になります。
A4. 外部との広範な交流を強く打ち出すよりも、日常生活に直接役立つ内容や、家族と話題や成果を共有できるような学び・活動として提案する方が参加のハードルが下がると考えられます。
A5. 全体で最も多いのは「②家族との関係が大事×悲観的」で39.8%、次いで「④家族との関係が大事×楽観的」が28.2%です。これらを合わせると、家族との関係を重視する層が全体の約7割を占めています。
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